Ys.Reibu

詩文

Boléro:Ravel

∽∽ドラムが執拗にリズムを繰り返す。射撃長が構えよと促す。銃身が乾いた音を立てる。鼓動が高まり、終わりを察する。生命(いのち)が晒され、剥き出しになる。タクトが振り下ろされて、銃口が一斉に火を噴く。一瞬の静寂が、奏者と観衆を捉える。トロンボ...
随筆

《オランピア》―見る者の心性を晒す眼差し

∽∽昨今の炎上騒ぎを目にすると、思い出す絵がある。エドゥアール・マネの《オランピア》である。サロンに展示された際、観衆はこの絵の前で激しく憤ったと伝えられている。裸体であることが問題だったからではない。裸体画なら西洋絵画には古来から題材とし...
雑感

臣民から国民へ—主権者であるということ

∽∽日本の行政を考えるとき、制度や党派以上の最深部の問題として、国民の意識のあり方を感じるときがある。主権が国民にある国に住みながら、自分を主権者として引き受ける感覚がなぜか薄いように感じる。それは、民族の気質というより、統治の歴史によって...
雑感

漱石の間合い

∽ ∽夏目漱石という人を思うとき、その沈黙の仕方に心を惹かれることがある。多くを書いた人でありながら、どこか自分を生身のまま文章に織り込むことを律しているように見える。近しい人に宛てた私信でさえ、どこか冷えている。それは、情がないということ...
随筆

耳介 - 視界より外された身体

何故そんなことを考えはじめたのか、はっきりしない。以前、外出先で食堂に入った。テレビでは小泉八雲の特集をやっていた。NHKが放映していたドラマのヒロインが、小泉セツをモデルにした設定だったので、その宣伝も兼ねていたのかもしれない。  昔読ん...
詩文

黒髪

二十一のとき、ふたつ下の女性と暮らしていた。折れそうなほど細い、おとなしいひとだった。  そのころの私は、受け止めたいものを、こちらからさし出すことを知らなかった。足りないものを世間のせいにしていた。就職の時期が近づいても、無いものを社会に...
小説

渋谷、冬

降誕前夜祭まえだったと思う。じつを言えば、もうよく憶えていない。彼女のコートの白さだけが、いまも頭の片隅にある。街路樹のイルミネーションなどは、記憶の混同かもしれない。  彼女は、中学の同級生だ。たいして親しかったわけではない。ぼくらと彼女...