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前稿の補遺である。
詩人を語り、詩は語らない。考えてみれば、意気地がない話である。
詩は理解する以前に、音楽のように感じるものでもあると思う。
けれど、感じた、でも説明はできない、では、逃げ口上のようでもある。
詩を理解するということは、詩の言葉に、
自分の感覚・感情・身体・気性・知性・倫理・年齢・経験・環境、
それらを打ち重ねてみることだと思う。
だから、感じた深さに自分の言葉が届かなくても、感じなかったことにはならない。
そう思い返して、ここに私訳したものをいくつか挙げておく。
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原詩と直訳を手がかりにし、意味の層を探った。ときおりAIとの対話も挟んだ。
そうして、最後に置く言葉たちは、自分の感触に拠って選んだ。
AIに披露すると、それはランボー風のあなたの詩だ、と返してきた。
それでいいと思う。
だから、これは定訳とは違う。
ランボーの詩には、生身を晒しながら、なお引かないところがある。
言わば、喧嘩場となった路地で一歩も動かず、相手から目を逸らさないような感触である。
そうして、見えたものを物語に綴じるのではなく、舞台へ引っ張り上げ、容赦なく焼き付けてゆく。
だからこれは、ランボーの詩へのオマージュである。
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《母音》
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A、黒。E、白。I、深紅。U、緑。O、蒼。
母音たち、
いつの日にか私は、おまえたちの隠された出生について語ろう。
A、黒。毛むくじゃらな胴衣と見まがう蠅どもが、ぎらぎらと、
ひどい悪臭のまわりをぶんぶん飛びまわる。
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影ふかき入江。E、蒸気と天幕の銀白、
誇らかな氷河の槍、白皙の王侯たち、薄く咲き震える小さき花々。
I、深紅、吐きこぼした血、麗しき唇に浮かぶ微笑み、
瞋恚を隠しながら、もしくは悔恨に酔うように。
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U、円環、緑なす海の神々しい揺蕩い。
けものらを点々と宿す牧場の平穏、思索する大いなる額に、
錬金術が刻みつける皺の安息。
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O、甲高く奇矯な響きに満ちた至高の喇叭、
諸世界と天使たちに貫かれた沈黙……
――おお久遠《オメガ》、かの人の瞳の紫の光よ!
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《いちばん高い塔の唄》
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使うすべのない若さだ、
すべてにひれ伏し、
羸弱さゆえに、
生きそこなってやがる。
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ああ、時よ、来い!
身も心も、焦げ尽くす時よ、来い。
,
棄てておけ、と己れに命じる、
ひとの眼を避けろ、と。
より高い陶酔が、おいそれと、
約束ごとなどするものか。
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邪魔だてされぬように、
畏まって身を縮めていろ。
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ああ、幾多のやもめ暮らしたち、
かくも惨めな魂だ。
後生大事に掻き抱くのは、
聖母の像だけとは。
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祈れだって?
マリアはまだ処女のはずだ。
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ずいぶん長く耐えた、
永遠かと思うほどだった。
懼れも苦悩も、
空の彼方へ消え去った。
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毒々しい乾きが、
血管をどす黒く通る。
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いつのまにか、草地など、
忘却に引き渡され、
荒れ育ち、知らぬ花だらけだ。
香煙と毒麦に充ちてやがる。
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うす汚い蠅どもの、
荒々しい羽音すらする。
,
使うすべのない若さだ、
すべてにひれ伏し、
羸弱さゆえに、
生きそこなってやがる。
,
ああ、時よ、来い!
身も心も、焦げ尽くす時よ、来い。
,
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《ああ、季節と、城と》
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ああ、季節と、城と。
疵のない心性など、あるものか。
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おれは、だれも逃れえぬ幸福というやつの
魔力を、見きわめた。
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ガリアの雄鶏が鳴くたびに、
そいつに頭を下げろと聞こえる。
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ああ、もう何も欲しがるまい。
そいつは、おれの命まで抱え込んでいる。
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この呪いは、身も心も持っていき、
あがきというあがきを散らしてしまう。
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ああ、季節と、城と。
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そいつが逃げ去るとき、
ああ、おれもそこで死ぬのだ。
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ああ、季節と、城と。
,
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《出発》
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もう見飽きた。
そんな絵空事なら、至る所にあった。
もう浴び過ぎた。
街の狂騒など、薄暗がりにも、陽の下にも、さんざんあった、うんざりするほどだ。
もう知り過ぎた。
人生の突き当たりなど。――ああ、狂騒と、絵空事と。
行くとしよう。
あらたなるお情けと、空《から》音の方へ。
,
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補遺として。
少年と青年の端境期にパリに出てきたランボーは、芸術家たちの素顔を見るには早すぎたように思う。
詩を離れたあと彼は、すぐにアフリカに赴いたわけではない。
ヨーロッパの文化的都市を転々としている。
詩はもう要らないが、自分の中の芸術的感性を、その逍遥の中で諦めていったようにも感じる。
ランボーは、故郷とも家族とも絶縁していない。
折に触れて帰り、鋭気が戻ると、またそこを出て行く。
エチオピアのハラールで右膝を腫瘍に侵され、
痛みに呻きながら、アデンを経てフランスへ戻ろうとした彼の執念は凄まじい。
故郷は、五千キロをはるかに超える彼方である。
けれども、その先には、母と末妹がいる。
それは、彼の最後の燭光だったように思えてならない。
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