アルチュール・ランボーについて  補遺と私訳

随筆

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前稿の補遺である。

詩人を語り、詩は語らない。考えてみれば、意気地がない話である。

詩は理解する以前に、音楽のように感じるものでもあると思う。

けれど、感じた、でも説明はできない、では、逃げ口上のようでもある。

詩を理解するということは、詩の言葉に、

自分の感覚・感情・身体・気性・知性・倫理・年齢・経験・環境、

それらを打ち重ねてみることだと思う。

だから、感じた深さに自分の言葉が届かなくても、感じなかったことにはならない。

そう思い返して、ここに私訳したものをいくつか挙げておく。

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原詩と直訳を手がかりにし、意味の層を探った。ときおりAIとの対話も挟んだ。

そうして、最後に置く言葉たちは、自分の感触に拠って選んだ。

AIに披露すると、それはランボー風のあなたの詩だ、と返してきた。

それでいいと思う。

だから、これは定訳とは違う。

ランボーの詩には、生身を晒しながら、なお引かないところがある。

言わば、喧嘩場となった路地で一歩も動かず、相手から目を逸らさないような感触である。

そうして、見えたものを物語に綴じるのではなく、舞台へ引っ張り上げ、容赦なく焼き付けてゆく。

だからこれは、ランボーの詩へのオマージュである。

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《母音》

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A、黒。E、白。I、深紅。U、緑。O、蒼。

母音たち、

いつの日にか私は、おまえたちの隠された出生について語ろう。

A、黒。毛むくじゃらな胴衣と見まがう蠅どもが、ぎらぎらと、

ひどい悪臭のまわりをぶんぶん飛びまわる。

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影ふかき入江。E、蒸気と天幕の銀白、

誇らかな氷河の槍、白皙の王侯たち、薄く咲き震える小さき花々。

I、深紅、吐きこぼした血、麗しき唇に浮かぶ微笑み、

瞋恚を隠しながら、もしくは悔恨に酔うように。

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U、円環、緑なす海の神々しい揺蕩い。

けものらを点々と宿す牧場の平穏、思索する大いなる額に、

錬金術が刻みつける皺の安息。

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O、甲高く奇矯な響きに満ちた至高の喇叭、

諸世界と天使たちに貫かれた沈黙……

――おお久遠《オメガ》、かの人の瞳の紫の光よ!

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《いちばん高い塔の唄》

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使うすべのない若さだ、

すべてにひれ伏し、

羸弱さゆえに、

生きそこなってやがる。

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ああ、時よ、来い!

身も心も、焦げ尽くす時よ、来い。

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棄てておけ、と己れに命じる、

ひとの眼を避けろ、と。

より高い陶酔が、おいそれと、

約束ごとなどするものか。

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邪魔だてされぬように、

畏まって身を縮めていろ。

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ああ、幾多のやもめ暮らしたち、

かくも惨めな魂だ。

後生大事に掻き抱くのは、

聖母の像だけとは。

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祈れだって?

マリアはまだ処女のはずだ。

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ずいぶん長く耐えた、

永遠かと思うほどだった。

懼れも苦悩も、

空の彼方へ消え去った。

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毒々しい乾きが、

血管をどす黒く通る。

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いつのまにか、草地など、

忘却に引き渡され、

荒れ育ち、知らぬ花だらけだ。

香煙と毒麦に充ちてやがる。

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うす汚い蠅どもの、

荒々しい羽音すらする。

,

使うすべのない若さだ、

すべてにひれ伏し、

羸弱さゆえに、

生きそこなってやがる。

,

ああ、時よ、来い!

身も心も、焦げ尽くす時よ、来い。

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《ああ、季節と、城と》

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ああ、季節と、城と。

疵のない心性など、あるものか。

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おれは、だれも逃れえぬ幸福というやつの

魔力を、見きわめた。

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ガリアの雄鶏が鳴くたびに、

そいつに頭を下げろと聞こえる。

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ああ、もう何も欲しがるまい。

そいつは、おれの命まで抱え込んでいる。

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この呪いは、身も心も持っていき、

あがきというあがきを散らしてしまう。

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ああ、季節と、城と。

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そいつが逃げ去るとき、

ああ、おれもそこで死ぬのだ。

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ああ、季節と、城と。

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《出発》

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もう見飽きた。

そんな絵空事なら、至る所にあった。

もう浴び過ぎた。

街の狂騒など、薄暗がりにも、陽の下にも、さんざんあった、うんざりするほどだ。

もう知り過ぎた。

人生の突き当たりなど。――ああ、狂騒と、絵空事と。

行くとしよう。

あらたなるお情けと、空《から》音の方へ。

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補遺として。

少年と青年の端境期にパリに出てきたランボーは、芸術家たちの素顔を見るには早すぎたように思う。

詩を離れたあと彼は、すぐにアフリカに赴いたわけではない。

ヨーロッパの文化的都市を転々としている。

詩はもう要らないが、自分の中の芸術的感性を、その逍遥の中で諦めていったようにも感じる。

ランボーは、故郷とも家族とも絶縁していない。

折に触れて帰り、鋭気が戻ると、またそこを出て行く。

エチオピアのハラールで右膝を腫瘍に侵され、

痛みに呻きながら、アデンを経てフランスへ戻ろうとした彼の執念は凄まじい。

故郷は、五千キロをはるかに超える彼方である。

けれども、その先には、母と末妹がいる。

それは、彼の最後の燭光だったように思えてならない。

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